傀儡の恋
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オーブのコロニーはともかくプラントのコロニーではかなり軍事研究が進んでいるようだ。
もちろん、これらを指示したのはギルバートだろう。
「……何を考えているのか」
目的はわかっている。だが、その後、彼が何をしようとしているのかが推測できない。
「レイが不幸になることだけは避けて欲しいものだが」
あの男のことだ。それに関してだけは配慮してくれるだろう。
「ともかく、あそこで何を作っているかだね」
新型の開発に関してはそれぞれ制限がかけられているはず。
だが、あの男がそれで納得するはずはない。自分達に有利になるように何か抜け道を探すに決まっている。
実際、ここには予想以上の資材が運ばれていた。その多くがMSの材料となる金属である。
「一応、報告はしておくか」
もっとも、既に把握している可能性はあるだろう。
それでもそれなりに仕事をしているのだと伝えておく必要がある。
「それ以上に気になることがあるしな」
かつてのメンデルに近い施設。それがここにはある。
それだけならば別段かまわない。
第三世代の誕生はコーディネイターにとっての彼岸だと言える。少しでも確率を上げるための研究は必要だろう。
だが、何かが引っかかる。
「実際の施設を見られればいいのだがね」
プラント関係者にも後悔されていないどころか、存在すら知られていないらしい。そのような場所へ他国の人間が入れるはずはないのは自明の理だ。
それだけに気にかかる。
「……運び込まれたらしい機器から推測するのも難しいね」
これ以上追求するのもあちらに自分の存在を知られる原因になるだろう。
「いっそ、メンデルにもう一度足を運んだ方がいいのかもしれない」
自分が望むデーターを得るためにはそれが一番手っ取り早いはずだ。
それがわかっていてもあそこに足を運ぶのは難しい。
「これは要相談かな」
プラント側があそこで何かしているのは事実なのだ。
それが世界のバランスを崩すことでなければいいのだが、と思わずにいられない。
だが、元の原因は自分が失敗したからなのだろうか。
それでもかまわないのではないかと思うのは、自分が現状を嫌っていないからだ。
「本当に世界とはままならないものだね」
あれほど壊したかった世界を、今は守りたいと思う。その気持ちも含めてこう呟く。
「それだからこそ、おもしろいのかもしれないが」
さらにそう続ける。
この世界で生きている者達を見続けるのは、と心の中だけで呟く。
「君は君の好きにすればいい」
ただし、とラウは唇だけ動かす。
「私やキラの幸せを壊さなければ、の話だがね」
もっとも、それは難しいだろうと言うこともわかっている。
あの男がキラの存在を見逃すはずがない。
ただでさえ彼はヴィアにそっくりなのだ。彼女にひかれていたあの男がそばに置きたがったとしてもおかしくはない。
そして、彼の戦闘能力。
あれは見過ごすには大きすぎる。
あの力が彼をどれだけ傷つけるか知らない者達には魅力的に思えるだろう。
だが、それは認められない。
「私は何を捨てても彼を守るつもりだよ」
このつぶやきは風にかき消された。